共同富裕とは何か?中国で立て続けに進むゲームやアイドル、テック企業への規制

公開日 2021/09/03 22:24,

更新日 2021/09/03 22:56

有料記事 / 政治・国際関係

  • 目次
  • ここ数ヶ月の共産党による規制
  • 共同富裕とは何か?
  • 一連の政策は、なぜ「共同富裕」と関係しているのか?
  • 文化革命の再来? 有料

今月、中国・共産党は18歳未満の未成年に対して、オンラインゲーム利用を週3時間に制限する新規則を発表した。また日本人3人がメンバーに選ばれたことでも話題となった人気番組『創造営2021』のような、アイドルのオーディション番組についても厳しく規制されることが発表された。

個々の政策にはそれぞれ理由があるものの、多くの専門家はそれ以上の背景があると考えている。それは、最近になって習近平政権が盛んに喧伝している「共同富裕」というスローガンだ。

こうした一連の規制は、中国・共産党の強権性を示す非合理的なものに見えるかもしれないが、それらは一貫したコンセプトの中で理解することも出来る。一体「共同富裕」とは何であり、なぜそれが一連の政策に関与しているのだろうか?

ここ数ヶ月の共産党による規制

本誌記事でもお伝えしたように、昨年末頃から共産党はテック企業に対して強権的な姿勢を見せていた。有名企業に限っても、以下のような出来事がわずか1年の間に起こっている。

  • Alibaba Group(阿里巴巴集団)傘下の金融会社Ant Group(アント・グループ)の上場中止(2020年11月)
  • PinduoduoやMeituanなど5社に対する、不公正な価格競争による合計650万元(約1.1億円)の罰金支払い(2021年3月)
  • Tencentに対する、独禁法違反による100億元(約1,700億円)規模の罰金支払い(2021年4月)
  • Didi Chuxing(滴滴出行)に対する、国家安全保障の保護を目的とした調査(2021年7月)
  • Meituanに対する、市場での地位乱用による約10億ドル(約1,100億円)相当の罰金支払い(予定、2021年8月)

エンタメ産業の取り締まり

こうした政治的介入は、テック企業に限っていない。たとえば、脱税によって2億9900万元(約51億円)の支払いを命じられた女優ジェン・シュアン(鄭爽)や、突如オンラインからコンテンツが削除されたヴィッキー・チャオ(趙薇)への措置は、共産党によるエンタメ産業の取り締まりの一環見られている

今月16日、K-POPの人気グループEXOの元中国系カナダ人のメンバー、ウー・イーファン(呉亦凡)が性的暴行で逮捕された。これに伴って、オンラインのファンコミュニティは事件への非難からイーファンの擁護、様々な憶測から誹謗中傷の声で溢れたが、共産党のサイバースペース管理局はこうした「無秩序」な状態を問題視している。今月27日には、ファンコミュニティへの規制をおこなうことも発表され、有害情報の拡散やアルゴリズムの不適切な運用、過度な消費主義などに制限を加えると述べられた。

学習塾の非営利化

また7月には、「教育格差の縮小」などを目的として学習塾の非営利事業への転換が命じられ、事実上1,000億ドルの産業が壊滅した。背景には中国の低い出生率があると言われ、教育や子育てに関する経済的および精神的なプレッシャー、それにともなう子育てへの意欲低下による少子化を問題視した共産党による強い措置へと繋がった。

これにより、中国の教育関連企業は大きく株価を下げた他、TikTokを運営するByteDanceも教育部門の人員を大幅に削減するなど、教育サービスに期待を寄せていたテクノロジー企業も対応に追われた。

習近平思想のカリキュラム化

そして極めつけが、習近平国家主席の思想を学校教育に取り入れる決定だ。国民の中には、文化革命を推し進めた初代指導者・毛沢東への個人崇拝を想起させるという抵抗もあるが、2017年に「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」として打ち出された思想は、小学校から大学にかけて段階的にカリキュラムに加えられることが決定している。

習近平国家主席をめぐっては、11月の会議でその功績や指導的地位を突出させる「歴史決議」をまとめるという観測も出ており、個人崇拝が進んでいく見込みだ。

共同富裕とは何か?

こうした一連の政策の背景にあるのが「共同富裕」というスローガンだ。まず最初にそれが何かを説明した後に、現在起こっている一連の政策と、どのように関係しているのかを見ていく。

「共同富裕」は、1980年代の中国の指導者、鄧小平(とう・しょうへい)によって掲げられた「先富論」に関係している。当時の中国は、文化大革命によって経済的に荒廃しており、鄧はまず一部の人々と地域が豊かになることで、国の経済成長を実現しようと考えた。「中国の特色ある社会主義」と呼ばれる、政治的には社会主義を掲げながらも、経済的には自由市場を認める中国独特の社会主義は、国家的な経済成長のために一定度の格差を許容したのだ。

「先富論」から「共同富裕」へ

その「先富論」の先にあるのが「共同富裕」だ。鄧小平の思惑通り、中国経済は2000年頃から急成長を遂げ、世界第2位のGDPを実現した。一方、「先富論」によってAlibabaやTencentなどのテック企業創業者のような超富裕層が誕生し、都市部と農村部の格差が広がった。1970年代後半の中国の不平等は北欧諸国に近いレベルだったが、2015年から2019年頃には格差が広がる米国とほぼ同じレベルにまで拡大したと言われる

「先富論」が達成された現在、次に共産党が取り掛かるべきは格差是正のための政策であり、それこそが「共同富裕」なのだ。その結果、政権が樹立した2012年頃は、散発的にしか言及されなかった「共同富裕」について、習近平国家主席は2020年頃から飛躍的に言及数を増やしていった。

現在、2035年までに共同富裕が「着実な進歩」を遂げ、2050年までには「基本的に達成」することが宣言されている。つまり、あと30年で中国の格差は是正されるという目標だ。

一連の政策は、なぜ「共同富裕」と関係しているのか?

では、なぜ「共同富裕」がエンタメ産業やテック企業、あるいはオンラインゲームへの規制に関係しているのだろうか?

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著者
The HEADLINE編集長
1989年東京都生まれ。2015年、起業した会社を東証一部上場企業に売却後、2020年に本誌立ち上げ。早稲田大学政治学研究科 修士課程修了(政治学)。Abema TV『ABEMAヒルズ』、日テレ系『スッキリ』、現代ビジネス、TBS系『サンデー・ジャポン』などでもニュース解説をおこなう。関心領域は、メディアや政治思想、近代東アジア、テクノロジー時代の倫理と政治など。
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