2021年11月、フランスで「ペットショップで犬と猫の販売を禁止する」法律が成立した。日本でも広く報道され、動物の扱いについて関心が集まった。
なぜフランスでこのような法律が成立したのか?この問いに対して、フランスの先進性や社会の成熟度を答えにあげるだけでは、(間違いではないにしても)不十分である。もちろん動物を保護するという考え方は一朝一夕に形成されたものではなく、かといって最初から社会に備わっていたものでもない。この法律は、動物を法的にどう保護するかという問題に関する、近代以降の長い議論の延長線上にある。また、動物愛護の法整備が進む背景には、動物たちの置かれている望ましくない現状がある。
そこで、動物愛護に関する歴史と現状をコンテクストとして踏まえた上で、本法律が成立した理由を見ていく。
まずは新たな規制の内容を簡単に確認する。続いてフランス(及びヨーロッパ)において動物と動物愛護についての法的扱いが、どのように変遷してきたかを辿っていく。最後にフランスの現状と問題点を整理し、ペットショップで犬猫販売が禁止されたことの意味を探る。
「動物の不適切な扱いに抗するための法」
2021年11月18日に可決された本法律については、フィガロ紙とルモンド紙が詳しい。両紙の指摘に従って、その内容を見ていこう。
ペットの購入と販売
今回、最も関心が集まったのはペットショップに関する以下の項目だ。
- 2024年以降、ペットショップでの犬と猫の販売が禁止される。犬猫を入手するには、認定されたブリーダーから購入したり、保護団体から引き受けたりするしか方法がなくなる。既存のペットショップでは、保護団体が保護した犬猫を展示することは引き続き可能。
- ガラスケースやショーウィンドウを用いて、外に向けて犬猫を見せるような展示は禁止される。
- インターネットでの犬猫の販売についても、プラットフォームが指定されるなど、枠組みが定められる。
一方、飼い主に対しても規制が強まる。
- 新たに犬猫や馬を飼い始める人は「認定証」を取得する必要がある。動物を飼った際の食費や医療費、教育などのコストについて理解していなければ、購入は認められない。
- 未成年が動物を購入する場合、必ず保護者の許可が必要になる。
動物愛護
今回の法案にはペットに関わるものだけでなく、以下のような条項も含まれる。
- サーカスやイルカショーなどで、本来野生である動物や鯨類を繁殖させたりスペクタクルに用いることが禁止される。7年後までに、これらの団体が野生動物を所有することも認められなくなる。
- 毛皮用のミンクの飼育も直ちに禁止されるなど、種別ごとの細かな規定は多岐にわたる。
加えて、動物に対する虐待や、生命に関わるような状況でのペット遺棄などについて、罰金刑や禁固刑が以前より重くなった。
動物愛護をめぐる世界の潮流
ここまで述べてきたように、ペットショップやイルカショーなど日本ではありふれているものまでが規制の対象になるなど、本法律は踏み込んだ内容という印象を受ける。
ただ、他の国に目を向ければ、特に動物の販売に関する規制は強まる傾向にある。例えば英・イングランドでは2018年に、生後6ヶ月未満の子犬や子猫をペットショップで販売されることが禁止された。アメリカでも、カリフォルニア州が2017年に保護された犬猫以外の販売を禁止したのを皮切りに、いくつかの州でペットショップでの犬や猫の販売に制限が設けられている。サーカスにおける野生動物の使用も、現在多くの国で禁止されている。
日本でも規制強化
規制が遅れていると言われている日本でも、ペット飼育を行政が管理する制度が整備されつつある。例えば今年6月からは、新たに購入される犬猫にマイクロチップを装着し、名前や品種、飼い主の情報などを国のデータベースに登録することが義務付けられる(これはフランスをはじめとする多くの国で、すでに一般的な義務だ)。
とはいえ、フランスの今回の法律は、ペットショップでの犬猫販売を全面的に禁止し、その販売形態にまで規制を設けるなど他国と比べても具体的かつ厳しいものだと言えるだろう。このような法律がなぜ可決されたのかを理解するためには、フランスにおける動物の扱われ方の歴史と現状を把握する必要がある。
フランスにおける動物愛護の法制史
動物は、人間の言葉によって自らの地位および権利の保障を求めてくるわけではない。この前提があるために、動物愛護の歴史は、動物に対する人間の感情の歴史、あるいは動物を理解しようとする人間の試みの歴史でもある。
ここではフランスを中心にして、法律が動物と動物愛護をどのように規定してきたかという法制史を簡単にたどろう。