黒人女性は、なぜ脱毛症やヘアロスに苦しんでいるのか?

公開日 2022年03月28日 20:44,

更新日 2022年04月01日 13:24,

有料記事 / 社会

27日に開催された米・アカデミー賞授賞式で、俳優ウィル・スミス氏がコメディアンのクリス・ロック氏の頬を平手打ちにする一幕が話題となった。ロック氏が、ウィル・スミスの妻であるジェイダ・ピンケット・スミスの髪型について、映画『G.I. ジェーン』と絡めて揶揄したことが発端だ。

映画『G.I. ジェーン』では、女性主人公が髪を刈って坊主頭となり、男性兵士とともに訓練する様子が描かれている。ジェイダ・スミス氏は脱毛症を告白しており、ロック氏はその主人公を念頭に置いて、ジェイダ・スミス氏の髪型を侮辱・揶揄した形となっている。(*1)

2016年の研究によれば、黒人女性(*2)の半数近くが、円形脱毛症をはじめとしたヘアロス(髪の毛が抜けたり、薄くなったりすること)で苦しんでいると言われている。そのためクリス・ロック氏の発言は、外見に対する揶揄・侮辱としてだけでなく、より広範な社会的背景から理解する必要がある。

一体、なぜ黒人女性はヘアロスに苦しんでいるのだろうか?

(*1)ウィル・スミス氏の行動については、不適切な侮辱・揶揄に対する対応として、あるいは本記事で説明する黒人女性のヘアロスの問題などを踏まえて一定度の理解を示す声もあるが、「有害な男らしさ」概念や「暴力的な黒人男性像」というステレオタイプへの再強化といいう懸念から、批判的な声もある。
(*2)黒人あるいはアフリカ系米国人などの呼称については様々な議論があるが、本記事では「黒人」で統一して、文脈に応じて、その他を使い分けていく。

ヘアロスと心理的影響

脱毛や薄毛などのヘアロスは、人種やジェンダーに関係なく世界中の関心事となっている。それは健康や生物学的な問題だけではなく、アイデンティティや自己肯定感、自信の減退など心理的影響をもたらすことでも知られている。

たとえば男性の70%以上が「髪の毛は重要な外見的特徴」だと考えており、62%は「ヘアロスが自尊心に影響を与える」と考えている。またヘアロスは、日常の余暇活動や社会活動、対外発信などを減退させ、うつ病や不安障害などを生み出しやすく、帽子やウィッグの着用を余儀なくされることで経済的負担が増大することも指摘されている。

女性のヘアロス

女性のヘアロスの原因や影響などは十分に明らかになっていないものの、男性と同様に遺伝的要因やホルモン的要因、そして環境的要因が関係していると考えられている。女性のヘアロスは、多くが女性型脱毛症(FPHL)によって引き起こされており、全米女性の約3,000万人が何らかの症状で悩んでいるとされる。

また元サッカー選手のジネディーヌ・ジダンや俳優ジェイソン・ステイサムなどに代表されるように、男性のヘアロスが時に「セクシー」と見做されることに比して、女性のヘアロスに対する社会的偏見はより強いままであり、奇異の目で見られるケースは多いとされる。ヘアロスはしばしば「審美的」な問題と見なされ、医学的な問題と理解されることは少ないため、女性はこうした社会的偏見を不均衡に被りやすい。

巨大なウィッグ・ビジネス

こうしたヘアロスがもたらす心理的影響および社会的偏見を受けて、ウェッグ・ビジネスは世界的に巨大市場となっている。2020年には約20億ドルだった市場規模は、2028年までに約30億ドルにまで成長すると予想されている。

しかしながら、社会的偏見を受ける人々の助けとなるウィッグ市場の背景にも、問題は横たわっている。インドや中国、東ヨーロッパ、そしてアジアの貧困地域では、女性が経済的な理由から髪の毛を売らざるを得なくなっており、それらが米国や英国などの先進国で、(人毛を用いていることから)価値の高いウィッグやエクステとして販売されている。

世界の人毛の58%がアジアから輸出されており、その中には不当な価格や搾取的手段、非倫理的な方法によって調達されたものも存在する。

このようにヘアロスやウィッグは様々な社会問題と関連しており、中でも黒人女性に関しては、固有の問題も存在している。

黒人のヘアスタイルと文化的背景

黒人女性のヘアロスについては、黒人に対する髪型の「矯正」や人種差別、そしてアイデンティティという社会・文化的な要因が密接に関わっている

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著者
編集長
1989年東京都生まれ。2015年、起業した会社を東証一部上場企業に売却後、2020年に本誌立ち上げ。早稲田大学政治学研究科 修士課程修了(政治学)。日テレ系『スッキリ』月曜日コメンテーターの他、Abema TV『ABEMAヒルズ』、現代ビジネス、TBS系『サンデー・ジャポン』などでもニュース解説をおこなう。関心領域は、メディアや政治思想、近代東アジア、テクノロジー時代の倫理と政治など。
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