President of the People's Republic of China Xi Jinping(Kremlin, CC BY 4.0), factories with smoke under cloudy sky(Patrick Hendry, Unsplash), Illustration by The HEADLINE

中国は、なぜ脱炭素目標を表明したのか?

公開日 2020年12月23日 19:08,

更新日 2023年09月13日 19:40,

有料記事 / 社会問題・人権

中国の習近平国家主席は9月22日、世界193ヶ国の首脳が参加する国連総会で「2060年に二酸化炭素(CO2)排出を実質ゼロ」とすることを宣言した。2060年までにカーボンニュートラルになり、今後10年以内には排出量を減少に転じさせるという。

中国はなぜ、脱炭素目標を表明したのだろうか?そしてそれはどのように実現されるのだろうか?

カーボンニュートラルとは

カーボンニュートラルとは、地球温暖化の原因のひとつとされるCO2の排出・吸収の結果をプラスマイナスゼロにする(地球上のCO2の総量に変動をもたらさない)ようなエネルギー利用のあり方指す

カーボンニュートラルな状態を実現するためには、そもそもCO2を排出しない、植林や森林保護などの温室効果ガスを吸収する自然物を通じて排出したCO2を除去する、温室効果ガスの排出権を取引するなどの方法がある。

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2018年10月に宣言したところによると、世界は2030年までに人為的なCO2排出量を2010年の水準から45%削減して、2050年までにネットゼロに到達しなければならないとされている。そのため、現在では国や自治体、多くの企業が取り組みを提唱・推進している。

2015年に合意された温暖化対策の国際ルール「パリ協定」の下では、約120ヶ国が2050年までにCO2排出量実質ゼロ、つまりカーボンニュートラルな状態を目指すとしている。日本は「50年までに80%削減」にとどまり、主要7ヶ国(G7)では米国と並んで実質ゼロを表明していなかったが、10月26日、菅首相が所信表明演説でカーボンニュートラルな脱炭素社会の実現を目指すことを宣言して、各国と足並みを揃えることとなった。

なぜ中国は脱炭素目標を宣言したのか

日本より1ヶ月ほど先んじてカーボンニュートラルを宣言した中国だが、この発表は驚きをもって迎えられることとなった。なぜなら、中国は長年にわたって、自国が発展途上国であることを理由に排出量削減を拒否してきたからだ。

先進国は、途上国に先んじて数十年も温室効果ガスを排出し続けてきた。中国はこれを踏まえて、これから経済発展を迎えようとする発展途上国が、先進国と同量の排出量削減の負担を強いられるべきではないという主張を続けてきた。

また、目標達成の実現可能性をいぶかる向きもある。中国は現在、世界最大の二酸化炭素排出国である。中国では、化石燃料に全エネルギー供給の90%を依存しており、最も炭素消費量の多い石炭が総発電量の60%を占める。そのため、今後も経済成長を見込む中で、目標達成のためには急ピッチの変革が必要と考えられるからだ。

逆に、これは中国政府の強い自信を示唆しているとも言える。中国外交の傾向を踏まえると、彼らは国際的なコミットメントの発表について慎重な姿勢を取ることが多い。しかし、今回は強いコミットを明確に打ち出しており、確信めいたものを感じさせる。

そのため、再生可能エネルギー分野における技術進歩によって、自国の経済発展を妨げることなくカーボンニュートラルを達成できるようにな見込みを、中国政府が持っていると考えることもできるだろう。

いずれにしても「60年までにゼロ排出」は野心的な目標であるが、中国が脱炭素を推進する背景にはどのような狙いがあるのだろうか。

気候変動問題への対応

まず、当然ながら、気候変動問題への対処という理由が挙げられるだろう。気候変動が中国の生態系や社会に及ぼす負の影響は大きく、中国国内においてもその影響は危惧されている。 過去100年間で、中国の年間平均気温は0.5〜0.8℃上昇、同時期における世界の気温上昇幅の平均値をやや上回り、ここ50年間の温暖化が特に顕著である。

1990年以降、ほとんどの年で全国の年間降水量が例年を上回り、南部では水害、北部では干ばつなどの災害が頻繁に発生している。四川では今年4月に、温暖化の影響を受けたと思われる異常に激しい山火事が発生し、消火隊員ら19名が死亡、約2万5000人が避難を強いられたことも記憶に新しい。

新エネルギー経済の支配

中国がすでに主導的な地位を占めている新しいグリーン技術に大きなチャンスがあることも、中国政府が気候変動にコミットする理由のひとつである。

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気候変動という危機

✍🏻 著者
シニア・エディター
早稲田大学政治経済学部卒業後、株式会社マイナースタジオの立ち上げに参画し、同社を売却。その後、The HEADLINEの立ち上げに従事。関心領域はテックと倫理、政治思想、東南アジアの政治経済。
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