前編で見たように、カーボンニュートラルはいまや世界的な潮流となっている。しかし同時に、批判的な見解も数多く存在しており、温暖化懐疑論者に限らず、批判も集めている。
一体、なぜだろうか?
そもそも測定可能?
まず、カーボンニュートラルは測定可能な概念なのか?という問題がある。国や企業による温室効果ガス(GHG)の排出量を正確に測定することは、簡単ではない。
現状、排出量の測定はカーボンニュートラルに取り組む国や企業の自己申告に依存している。いくつかの第三者機関は存在するものの、統一した規格や機関がないことで、曖昧な「実質ゼロ」が独り歩きしている。
この問題に対して、元・米副大統領のアル・ゴア氏らが主導する「Climate TRACE」というグループは、新たなソリューションを提供しはじめた。彼らは、複数のデータソースと追跡ツールを統合することで、「これまでにないレベルの精度と速度で、世界中のすべての人為的な温室効果ガスの排出量を追跡・検証すること」を実現したと述べる。
彼らのツールは、世界中の陸・海上などのリモートセンシングネットワーク(衛星、レーダーなど)から収集した、様々な画像を統合して、機械学習によって、GHGがいつ・どこで・どのように発生したかを特定している。アルゴリズムが洗練され、より多くのデータソースが追加されるごとに精度が改善されていくという。
このソフトウェアが2020年7月に生まれたことは、それまで排出量の正確な計測が実現していなかったことを示唆している。
また、中国の石炭火力発電の使用量やGHGの排出量については、しばしば統計データに不正確さがあると指摘される。GHGの追跡に限らず、元となる統計の不正確性なども問題となりえるのだ。
不十分な規制
また、国や企業は次々とカーボンニュートラルを目指すことを宣言しているが、それらは単一の規制に基づくものではない。パリ協定には、「気候変動に対処する計画が不十分な場合、各国に説明責任を負わせる幾つかの監視が含まれているが、国際法などによって強制されるものではない」。
すなわち、不正確な測定にもとづいてカーボンニュートラルを達成しても、法的に咎められることはない。
加えて、GHGに国境は存在しないが、国境外にあるGHGを規制する枠組みもない。「国際海運や空の旅からの排出については、どこかでカウントするべきであり、各国が責任を負う必要がある」ものの、実質ゼロの枠組みからは漏れている。
本当にカーボンニュートラル?
そしてカーボンニュートラルの定義そのものに、疑念を抱かせるような事例もある。2017年、200名の科学者が木質バイオマス由来のエネルギーについて「カーボンニュートラルではない」とする声明をEUに送った。
木質バイオマスとは、間伐などで伐採された未利用の木材や、製剤工場などで発生した樹皮などの木材をエネルギーとして利用するもので、燃やす過程で二酸化炭素が発生する。しかしこれは、木材がこれまでに吸収した二酸化炭素であり、伐採後に新たに森林が生えれば、その樹木が新たに二酸化炭素を吸収することから、カーボンニュートラルだと言われてきた。
しかし木質バイオマスには大きな落とし穴がある。そもそも、木質バイオマスをエネルギーとして利用する上では、石炭や天然ガスよりも多くの二酸化炭素を発生させる。加えて、ある樹木を伐採した場所に、同じような新たな樹木が生まれるかは不明で、木質バイオマスの広がりが違法伐採を誘発させている。
結果として、カーボンニュートラルを盾として大量の森林が失われたことなどから、強い懸念が指摘されるようになった。現在、バイオマスをカーボンニュートラルと定義するべきかは、厳しいレビューが求められている。
このように、従来ではカーボンニュートラルとされた仕組みに疑義が唱えられることもある。
カーボンニュートラルの「不都合な真実」
これらの事実を踏まえて、カーボンニュートラルには「不都合な真実」があるという批判は根強い。
特に、再生可能エネルギーへの転換などに比べて、国や企業が容易に取り組めるオフセットが中心となっている現在、カーボンニュートラルには致命的な欠陥があるという指摘が後を絶たない。
例えば2007年頃には、大手メディアからオフセットへの批判が続々と出てきた。Financial Times紙は「排出量の削減をもたらさない、価値のないクレジットを購入する人々や組織の事例が広まっている」と述べ、Guardian紙は「これらのスキームは規制されておらず、広範な詐欺に直面している」と厳しく糾弾している。
そこから10年以上が経過して、「企業の計測プロセスが成熟してきたことで、より多くの間接排出も計測に含まれるようになった」とされるが、そのシステムは未だ不十分である。
衝撃の結果は、2016年にEUで公表されたレポートだ。