エチオピアでなぜ武力衝突が起きたのか?現状や背景は

公開日 2021年02月17日 19:29,

更新日 2021年02月17日 20:26,

有料記事 / 政治・国際関係

2020年11月初頭、アフリカ東部エチオピアで、北部ティグレ州を拠点とする政党のティグレ人民解放戦線(TPLF)と政府軍との間で武力衝突が起きた。

エチオピア周辺地域は、古くから海上交通の要所である。紅海からスエズ運河を通って地中海へつながっており、欧米諸国が強い関心を持っている。また、首都のアディスアベバにはアフリカ連合の本部があり、アフリカ外交の中心地でもある。

何より、2019年にノーベル平和賞を受賞したアビー・アハメド首相が軍事作戦を実行したとあって波紋を広げた。政府軍による攻撃は無差別におこなわれ、一般市民にも死傷者が出ており、戦争犯罪に加担していると非難を浴びている。 

武力衝突が発生してからおよそ3か月が経過した。なぜ衝突は起きたのだろうか?そしてエリトリアの参戦など、複雑化する現地の様子はどうなっているのだろうか?

なぜ衝突が起きたのか

衝突の直接的な原因は、2020年9月にティグレ州でおこなわれた議会選挙とする見方が有力だ。

この選挙は当初5月に実施予定だったが、新型コロナウイルスの影響で8月に延期されていた。その予定も再度延期されたが、ティグレ州は9月に選挙を強行して、連邦政府との間で緊張が高まっていた。 ただ、もう少し長い時間軸で分析する必要がある。

というのも、もともと連邦政府とTPLFは対立関係にあったからだ。

アビー首相による新党結成とTPLFの拒否

アビー首相が現職に就任したのは、2018年4月である。彼はエチオピア人口の30%を占める最大民族オロモ出身であり、民族融和をかかげ国内の民主化を進めようとしてきた。そして、2019年12月に政局はさらなる変化を迎える。

それまで与党を担っていた複数の民族政党による連合政党、エチオピア人民民主革命戦線が解消され、新たに「繁栄党」が発足したのだ。かつて連合を組んでいた政党の多くは繁栄党にも参加したが、TPLFは参加を拒否した

TPLFは少数民族の政党でありながらも、アビー首相誕生前までおよそ30年にわたって政権の中枢を担っていた。TPLFの議長デブレチオン氏は、繁栄党が民族ごとの連邦制を弱体化させて民族の自治権利を奪うなどの理由から、新党結成に反対してきた。

アジア経済研究所の児玉由佳氏が述べるように、「多数決のみでものごとを進めれば、首相の出身民族であり数的優位にあるオロモの意向が、強く反映されることになる」ことを警戒したのだろう。

アビー首相は就任以来、民族の利益を超えて国家を1つに統合しようとしてきたが、TPLFは反発していた。ティグレ州で強い影響力を持っていたティグレ人およびTPLFにとっては、アビー首相の改革によって、同州の自治権や政治的影響力が弱まることを危惧していたためだ。

こうした背景もあってTPLFは、ティグレ州の地方自治を主張すべく、中央政府による延期決定を無視して9月の議会選挙を強行したと見られる。連邦政府に対するTPLFの不信感・危機感が背景にあり、選挙の強行および武力衝突に至ったのだ。

衝突開始から勝利宣言まで

では、衝突がはじまってからの流れを振り返ってみたい。

2020年11月4日、エチオピアの首相事務所は、ティグレ州にあるエチオピア国防軍基地にTPLFが攻撃をしたとして、国家と同州の不安定化を避けるため政府軍を派遣すると宣言した。

宣言の後、首相広報官のビレーヌ・セユム氏はロイター通信に対し、ティグレ州における軍事作戦が予定通り開始したと伝えている。この決断について、アビー首相は後にこう語っている。

私の国の高潔さを守り立憲的秩序を回復させるために、戦うかどうかではなく、どのように戦うか、という決定のみが残されていた。

23日、アビー首相は作戦が最終段階に入る見込みだと発表した。

この声明によると、作戦は3段階に分かれていたようだ。攻撃を受けた政府軍を回復・強化するというのが第1段階で、これは作戦開始後まもなくクリアされたという。

第2段階の目的は、各地域からTPLF一派を排除してその戦力を削ること、くわえて、ティグレの人々を解放し州首都メケレを包囲することであった。これもクリアしたとするアビー首相は、TPLFにむけた「最後のチャンス」として、72時間以内に投降するよう求めた。 そして72時間が経過した26日、作戦の最終段階が開始したことを発表した。

最終段階においては、「無実の市民を危害から保護することに最善の注意が払われる」と述べたうえで、「メケレが深刻な被害にあわないよう、最大限の努力がなされる」とした。 28日、アビー首相は声明を発表、メケレが政府軍の「完全な支配下」に入ったとして事実上の勝利宣言をおこなった。ただ、TPLFのリーダーたちを探し、逮捕したうえで法廷へ連れていく任務は継続すると付け加えた。 30日に開かれた人民代表議会でアビー首相は、被害にあった一般市民は誰もいないと述べた

しかし、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)のミシェル・バチェレ氏は、12月22日の声明で一般市民の状況について強い懸念を示している。同氏は、エチオピア政府軍による一般市民の居住エリアにむけた空爆など、国際人道法および人権法に違反する行為を確認したという。正確な数は把握できていないが、英・BBCThe Guardianなどの取材・調査からも、一般市民が被害にあっているのは間違いないだろう。

TPLFの抵抗、隣国・エリトリアの参戦

実は、勝利宣言のあとも各地で戦闘が続いている。しかも、隣国・エリトリアの参戦によって状況は複雑化している。以下で、その経緯について詳しく見ていこう。

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著者
The HEADLINEリサーチャー。早稲田大学政治経済学部所属。関心領域は、政治哲学・西洋政治思想史・倫理学など。
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