⏩ コロンビア大学を筆頭にキャンパスへ警官突入、逮捕者は全米で1,000人超え
⏩ 学生の抗議運動とそれへの反発、ぞれぞれの背景とは?
⏩ 逮捕者続出でも抗議は継続、大学側も対抗姿勢あらわに
4月30日(現地時間)、アメリカのコロンビア大学のキャンパス内に、ニューヨーク市警が突入し、建物を占拠していたデモの参加者たちの強制排除に乗り出した。
コロンビア大学が面する通りを進む警察車両
デモ参加者が占拠したハミルトン・ホールに、特殊車両を使って突入する警察
4月中旬頃から、デモ参加者たちはイスラエルによるガザ地区への攻撃に対して、キャンパス内の芝生にテントを設営するなどして抗議活動をおこなっていた。コロンビア大学は、退去しない学生に対し、規則違反だとして停学処分にする通告などをしたが、これに抗議した一部のデモ参加者が同大学のハミルトン・ホールを占拠した。
コロンビア大学のハミルトン・ホールを占拠するデモ参加者たち
警察による突入後、コロンビア大学は声明で、「一夜にしてハミルトン・ホールが占拠され、破壊され、封鎖されたことを知った後、私たちには選択肢が残されていませんでした」として、警察の介入理由を説明した。
警察突入後のハミルトン・ホール
後述するように、コロンビア大学でのデモ(とそれへの対応)が口火を切り、各地の大学でも抗議活動が広がった。アメリカにとどまらず、フランス、イギリス、日本、オーストラリアなど世界中の大学キャンパスでも同様の動きが見られる。
とはいえ、アメリカにおけるエスカレートの度合いは、学生と教員など合わせて1,000人を超える逮捕者が出るほどであり、他国の比ではない。現在、アメリカの大学で何が起きており、なぜこれほどの混乱に陥っているのだろうか。
何が起きているのか?
一連の抗議活動は、4月18日、コロンビア大学で警察が退去に応じない親パレスチナデモの参加者100人以上を逮捕したことがきっかけだ。
これ以降、約40の大学に抗議活動が広がり、親パレスチナの抗議活動とそれに伴う逮捕者が後を絶たず、5月1日までで約1,600人以上が逮捕された。逮捕者の中には、学生の他に教員なども含まれている。
4月中旬から5月1日にかけて逮捕者が出たキャンパス(Axios、The New York Times 紙を参考に筆者作成。わかりやすさのため、位置はおおよその場所を示している)
逮捕理由のほとんどは、不法侵入によるものだったという。大学キャンパスにおけるデモ参加者を逮捕したことについて、複数の公民権団体は「言論や抗議活動に対する憲法違反の弾圧」だと非難している。
また、足元で逮捕者が出ていない大学でも、深刻な混乱に陥っているケースがある。たとえば、4月30日、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)では、親イスラエルの活動家と親パレスチナの活動家が激しく衝突し、少なくとも15名が負傷した。
UCLA キャンパス内での衝突
なぜ学生は大学に抗議するのか?
デモの参加者たちの具体的な要求は各大学によって微妙に異なるが、主に大学に対して、イスラエルやその関連企業との関係を断つよう求めている。
コロンビア大学での抗議の様子(2024年4月21日)(عباد ديرانية, Public domain)
たとえば、コロンビア大学で抗議運動を展開した学生組織・Columbia University Apartheid Divest は、大きく5つの要求をあげた。要求の1つには、「パレスチナにおけるイスラエルのアパルトヘイト、ジェノサイド、占領によって利益を得ている企業や団体から、寄付金を含むすべての金融資産を引き揚げること(ダイベストメント)」があげられている。
これ以外にも、キャンパス内での警察活動の禁止、イスラエルにある大学との提携解消などをデモの参加者は要求してきた。
なぜ抗議に反発が起きるのか?
一方で、こうした抗議活動には反発も起こっており、対立は鮮明化している。
前提として、アメリカではイスラエルを非難することが困難だとされている。実際、イスラエル・ハマス戦争が開始した2023年10月、ハーバード大学では、イスラエルのみを非難する声明に署名したとして、学生の名前と顔写真がアドトラックでさらされている。
そのうえで、現在の大学キャンパスでの抗議活動に対する厳しい対応は、大きく2つの視点から理解でき、具体的には(1)DEI の後退(2)抗議活動に対するバイデン大統領の反応があげられる。
1. DEI の後退
1つ目は、DEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)を批判する保守的な潮流が高まっていることだ。その証左として昨年来、DEI をかかげていたアメリカの名門大学の学長が、相次いで辞任に追い込まれた点があげられる。
2023年12月、ペンシルバニア大学、ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)の学長が議会証言にのぞんだ。その際、「ユダヤ人の虐殺を呼びかける」ことが学校の行動規範に違反するかについて質問があり、3人の学長はいずれも、言論の自由とのバランスを考慮して明確な回答をしなかった。
これがユダヤ系の人々や、大学に対する大口寄付者たちの怒りを買い、ペンシルバニア大学のリズ・マギル氏とハーバード大学のクローディン・ゲイ氏が相次いで学長を辞任した。
こうした背景があり、各大学では親パレスチナのデモ活動に対し、厳しい対応がなされたと考えられる。
2. 「10月7日を忘れるな」に対するバイデン大統領の反応
2つ目は、バイデン大統領の対応だ。
4月下旬、ある映像が拡散された。コロンビア大学で抗議活動をしている人物が次のように叫んでいる。なお、この人物が大学の関係者かは分かっていない。
10月7日(引用者註:2023年にハマスがイスラエルを攻撃した日付)を決して忘れるな。それが起きるのは、もう1回でもなく、もう5回でもなく、もう10回でもなく、もう100回でもなく、もう1,000回でもなく、もう1万回でもない。10月7日は、お前たちにとって毎日だ。
ここで重要だったことは、この映像に対するバイデン大統領のコメントだ。同大統領は声明を発表し、「このあからさまな反ユダヤ主義は非難されるべきであり、危険であり、大学のキャンパスや我が国のどこにおいても、それは絶対に許されない」と述べた。
オーバリン大学のマシュー・バークマン助教授は、このバイデン大統領の声明が「コロンビア(大学)の抗議活動に対する全面的な非難」として機能したと分析する(太字は引用者による)。同声明によって、おおむね平和的だった(*1)とされる学生のデモと、大学関係者か分からない人物の活動に区別が無くなり、全面的に厳しい対応がなされたという説明だ。
実際、コロンビア大学で抗議を主催していた学生は、芝生にテントを張っていたグループと、建物を占拠したグループは別だと主張している。
(*1)ニューヨーク市警察は、コロンビア大学でテントを設営する抗議活動が始まって数日後の4月22日の記者会見で、イスラエル国旗が学生から奪われたり、不特定の憎悪に満ちた発言がなされたケースを報告している。一方、警官が学生を階段から蹴り落としたとする動画も出回っており、市警にも暴力的な警察活動の疑いが向けられている。
今後どうなるのか?
各地のキャンパスに警察が突入し、全米で逮捕者が1,000人を超えたが、デモの勢いがとどまる気配はない。
5月1日にも抗議活動が続く UCLA
コロンビア大学の学生団体は、次のアクションについて明確に言及していない。ただ、前述した要求に大学側が従うまで運動を続けるつもりであることは以前明らかにしており、活動の継続が予想される。
一方の大学には、要求を受け入れるつもりはない。コロンビア大学のネマト・シャフィク学長は4月30日、ニューヨーク市警察に対し、5月17日までキャンパス内にとどまるよう求めた。同大学では5月15日に入学式が予定されている。
バイデン大統領は状況を注視しているというが、ほとんど沈黙を保っている。同大統領は、トランプ氏との接戦が予想される大統領選挙を見据え、下手に抗議活動への言及をおこなうことで有権者の支持を失うわけにはいかないからだ。
イスラエル・ハマス戦争の勃発以来、大学は、言論の自由と反ユダヤ主義との戦いのバランスを取ることに苦労を強いられてきた。コロンビア大学は、言論の自由の砦という長年の評価にもかかわらず、キャンパスに警察を投入しデモを鎮圧した。
これは「コロンビア大学にとって永遠の汚点となるだろう」とさえ言われている。