The life in London(Marc Kleen, Unsplash) , Illustration by The HEADLINE

ブレグジット後の移民政策、現代の奴隷を増加させる脅威に?

公開日 2020年11月25日 17:21,

更新日 2023年09月20日 11:09,

有料記事 / 移民・難民 / 人権

昨年10月、EU(欧州連合)からの離脱協定に合意したイギリスが、今年1月31日正式に離脱した。ただ年内は11ヵ月の移行期間中であるため大きな変化は生じていない。現在イギリス政府は、FTA(自由貿易協定)などについて、EUとの将来の関係について交渉を進めている。

その最中、2月18日に同内務省がブレグジット(イギリスのEU離脱)後の新たな移民制度を発表した。脆弱な未熟練労働者たちを「現代の奴隷」(modern slavery) へと追いやるリスクがあると批判される一方、STEM(科学・技術・工学・数学)分野の熟練労働者を求める大学やテック業界からは歓迎の声も聞かれる。

新たな移民システムとは何であり、なぜ議論を呼んでいるのだろうか。

現代の奴隷対策を先導するイギリス

まず、「現代の奴隷」(modern slavery)とは何だろうか。世界最古の人権組織Anti-Slavery Internationalによれば、奴隷制は19世紀の廃止でもって終わったわけではない。それは今日の世界でも形を変え、人々を傷つけ続けている。

法学者のジャスティン・ノーランとマーティン・ボエルスマ(2019:10)によれば、現代の奴隷に一律の定義はないが、「搾取者たちによる、抑圧的で違法な管理のもと生活や労働をする人」を意味する。そのような人々は、生活を送るために「そうするより他に選択肢がない」状態にある。具体的には、強制結婚・強制労働・人身取引といった搾取的な慣行の被害者となるケースが多い。

イギリスは世界に先駆けて、現代における搾取的な慣行の是正に取り組んでいる国家と言われる。

たとえば2015年3月26日、イギリス議会によって現代の奴隷法(Modern Slavery Act 2015)が制定された。起草者の1人は、当時内務大臣であったテリーザ・メイ前首相だ。同法は、イギリスにおける現代の奴隷制に対抗することを目的とし、それまで別の扱いであった人身取引と奴隷制に関連した犯罪行為を、一元的に管理するものである。

オーストラリアでも同目的の法律「Modern Slavery Act 2018」が、2018年12月10日に成立している

高いハードルの新システム、人身取引の脅威に

しかしながら、今回新たに制定された移民制度によって、そのイギリスが現代の奴隷を生み出す可能性がある

2021年1月1日に施行される新たなポイント制移民システムのもとでは、イギリス入国を希望する海外労働者は、英語が話せること、技能職への仕事のオファーを受け、「承認された雇用主がスポンサー」になっていることが求められる。

移民がイギリスで就労するためには、これら必須条件を充たしたうえで、以下の表と照らし合わせて合計70ポイントに達する必要がある。

プリティ・パテル内相は、この新システムにより、「最も聡明で最良な人がイギリスに来られるようになる」と説明する。 

必須条件 ポイント
 承認されたスポンサーからの仕事オファー 20
 適切な技能レベルの仕事 20
 要求水準に見合った英語能力 10
給与に対するポイント  
 20,480ポンド~23,039ポンド 00
 23,040ポンド~25,599ポンド 10
 25,600ポンド以上 20
追加ポイント  
 人手不足の職業での仕事 20
 仕事と関連性のある分野の博士号(PhD) 10
 関連性のあるSTEM教育(科学・技術・工学・数学 分野)の博士号(PhD) 20

(表:新たに提案されたポイント制システム=BBC

だが、イギリスをめざす未熟練労働者たちにとって、就労ビザの取得は高いハードルだ。そのため、彼ら/彼女らを必要とする農業、建設業、介護やソーシャルケア業界などは人手不足への懸念を強めている。イギリス在宅介護協会(UKHCA)は声明を発表し、政府の決定に「失望している」と述べた上で、「非常に無責任である」と批判した。

その結果、ますます脆弱な労働者たちが生まれ、現代の奴隷に追いやられる可能性がある

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✍🏻 著者
シニアリサーチャー
早稲田大学政治学研究科修士課程修了。関心領域は、政治哲学・西洋政治思想史・倫理学など。
編集長 / 早稲田大学招聘講師
1989年東京都生まれ。2015年、起業した会社を東証一部上場企業に売却後、2020年に本誌立ち上げ。早稲田大学政治学研究科 修士課程修了(政治学)。日テレ系『DayDay.』火曜日コメンテーターの他、『スッキリ』(月曜日)、Abema TV『ABEMAヒルズ』、現代ビジネス、TBS系『サンデー・ジャポン』などでもニュース解説。関心領域は、メディアや政治思想、近代東アジアなど。
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