a close up view of a red fabric(Jackson David, Unsplash) , Illustration by The HEADLINE

中国発、謎のファッションブランドSHEINに注目が集まる理由。急成長のデカコーンの強みとリスク

公開日 2021年04月06日 18:56,

更新日 2024年01月17日 18:01,

有料記事 / 経済

今、米国の(そして日本の)Z世代から、密かに注目を集めているファストファッション・ブランドがある。中国で2014年頃に生まれ、急成長を遂げているSheIn(シーイン)だ

いわゆるプチプラ(プチ・プライス、低廉価格の意味)商品として人気を集めており、ZARAやH&Mを脅かしつつあるSheInの存在は、もはや中国企業がインターネット・テクノロジー領域だけではなく、アパレルや食品などでも台頭する未来を予感させている。

また新疆ウイグル自治区の綿花(コットン)をめぐって、中国政府がH&Mを批判する中、アパレル業界も政治的リスクから無縁ではないことが分かったが、中国発のグローバル企業の存在は、この問題をより複雑にしていくだろう。

Sequoia CapitalやTiger Globalなど大手VCが投資をおこない、上場準備中の噂も絶えないSheInとはどのような企業なのだろうか。

どんな企業か

SheInというブランドや運営企業については、不明なことが多い。それは同社がメディア露出やPRを慎重に避けているためであり、中国企業であることも相まり、十分な公開情報がないためだ。しかも興味深いことに、中国人の多くはこのブランドについて聞いたことがない

では、一体誰がSheInを買っているのだろうか?


SheIn の米国向けサイト(同社HPより

SheInとは

SheInは、2014年に誕生したファストファッション・ブランドだ。ファストファッションといえば、ZARAやH&M、GAPなどが知られており、UNIQLOの名前が加えられることもある。

一般的にファストファッションは、最新のトレンドに合わせて次々とアイテムを投入する業態を指し、ベーシックアイテムを主力とするUNIQLOはその定義から外れるとも言われる。SheInは、まさにその「ファストファッション」という言葉が定義するようなビジネスを展開している。

後述するが、同社の強みは企画から販売までのサイクルの速さ、大量に投入される商品点数、信じられないほどの低価格などにある。それによりSheInは現在、米国や中東、ヨーロッパなどで人気を誇るブランドとなった。中国の国際的ブランド・リストでは、Huawei(ファーウェイ)やByteDance(TikTokの運営企業)、Alibaba(アリババ)、Xiaomi(シャオミ)などと並んで、SheInが14位にランクインしている

前述の通り、中国ではほとんど知られていないSheInだが、米国では高収入世帯の10代が好きなECサイトで2位になるほどの熱狂ぶりだ。4月4日時点で、彼らのInstagramは1800万人以上のフォロワーを抱えており、米国をはじめとする世界中のファンから支持が集まっている。

歴史

SheInの運営企業である南京希音电子商务(南京霊天情報技術株式会社から名称変更)は、2008年に許仰天によって創業され、江蘇省南京市に拠点を置く企業だ。

創業者の許仰天(Chris Xu、Yangtian Xu)は、米国で生まれてワシントン大学を卒業、Nanjing AODAOという企業のオンライン取引に関するマーケティング部門で働いた後、同社を起業した。

当初は、SEOに関する事業からスタートして、次にオンラインでウェディングドレスを販売する事業をはじめた。この時は、多くのクロスボーダー(国境を超えた)なECを展開する中国企業のように、AmazonやEbayでの販売を中心としていた。

2012年、レディース・アパレルの販売を決意した同社は、自社でECサイトを用意することを決意し、Sheinsideという名前でブランドをスタートさせた。SEOやSNS広告などを積極的に活用することで戦略は功を奏し、2015年頃からは同業他社の買収などを通じて、拡大を続けた。現在もサブ・ブランドとして運営されているRomweと、2019年に閉鎖したMakemechicを買収した他、英国の運営企業が破綻したTOPSHOP(トップショップ)の買収も試みた。

2017年頃には、配送の困難さから多くの競合企業が苦戦を強いられる中東市場で成功を収めはじめた他、インド市場にも進出を進めた。2018年の売上構成は、米国30%・ヨーロッパ20%・中東20%だったと言われる。

売上・投資

SheInの売上は急激に成長している。2016年には10億元だった売上は、2017年に30億元、2018年に80億元となり、2019年には160億元(約3300億円)に達した2020年は6月時点で売上高が400億元を超えて、年間では1,000億元(約1.68兆円)に達した予想されている。ちなみにパンデミックによる大きな打撃で比較はしづらいが、主要なアパレルブランドにおける最近の売上高は以下の通りだ。

  • Inditex(インディテックス、ZARAの親会社):204億200万ユーロ(約2兆6318億円)
  • H&M:1870億3100万スウェーデンクローナ(約2兆2443億円)
  • ファーストリテイリング(UNIQLOの親会社):2兆88億円

また営業利益は8%、EBITは6%となっている予測もある。多くのECサイトと同じく、SheInも多額の広告予算を投下しているため、この費用によって利益率は大きく変わっていく可能性もあるが、競争の激しいオンライン・アパレル市場で力強く成長していることは間違いない。

急成長に伴い、投資家からの注目も高まっている。同社はこれまでJAFCO AsiaやIDG Capital、Sequoia Capital、 Tiger Globalなどから投資を受けており、150億ドル以上の評価額でシリーズEラウンドの資金調達を完了したと言われている。これまで、2013年と2015年、2018年、2019年末、そして2020年に資金調達をしており、評価額100億ドル超の巨大未上場企業のことを指すデカコーン企業となった(ユニコーンの10倍)。

同社の秘密主義は投資家に対しても徹底されており、CrunchbaseやCB Insightsなどの有力な調査会社ですら、同社がユニコーンとなったことを見逃していた。

4つの成長の秘密

SheInの急成長は、大きく4つのポイントから説明される。

販売までのサイクルの速さ

まず指摘されるのは、製品の設計から生産までの速さだ。ZARAであれば最短14日間のサイクルとなっているが、SheInはなんと7日間に押さえており、最終的にはこれを3日にまで短縮することを目指している。

ファストファッションの特徴は、約3ヶ月かけて製品の企画から販売までをおこなう伝統的なアパレルブランドに対して、トレンドのキャッチアップと販売実績などから予測をおこない、企画から生産までのプロセスを大幅を圧縮していることにある。SheInは店舗を持たないことで、このサイクルを更に速めることに成功した。

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✍🏻 著者
編集長 / 早稲田大学招聘講師
1989年東京都生まれ。2015年、起業した会社を東証一部上場企業に売却後、2020年に本誌立ち上げ。早稲田大学政治学研究科 修士課程修了(政治学)。日テレ系『DayDay.』火曜日コメンテーターの他、『スッキリ』(月曜日)、Abema TV『ABEMAヒルズ』、現代ビジネス、TBS系『サンデー・ジャポン』などでもニュース解説。関心領域は、メディアや政治思想、近代東アジアなど。
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