なぜ仏パリ・サン=ジェルマンは、業績・成績で躍進を遂げたのか?

公開日 2022年09月26日 15:43,

更新日 2022年09月26日 15:49,

有料記事 / スポーツ

  • パリ・サン=ジェルマンFCの業績、直近十年で急成長
  • 成功要因は、収益、ブランド力、社会的影響、スポーツの成功など複数
  • その背景には、カタールの国家戦略に基づく資本投入が存在

フランスのサッカークラブ、パリ・サン=ジェルマンFC(PSG)が今季も好成績を挙げている。9月26日現在、PSGはリーグ1開幕8試合中7勝1分け、26得点4失点で単独首位に立っている。

去る7月下旬に実施されたPSGの日本ツアーも盛況を博した。今回のツアーは同クラブの27年ぶりの来日だったが、3試合で計16万人を超える観客を動員するなど、好況のうちに終了した

この日本ツアーで試合と並んで話題を集めたのはグッズ販売だ。7月20日、東京・国立競技場で行われたツアー開幕戦(対川崎フロンターレ)ではグッズの売上が1億円を超え、その3日後の23日、埼玉スタジアムで行われた第2戦(対浦和レッズ)では、それをさらに上回る記録となった

今回、PSGのグッズ売り上げがこれほどの高い成果を挙げた背景には、同クラブのブランディング戦略がある。一体PSGはどのようなブランディング戦略を取っており、その成功の要因は何だったのだろうか。

PSGの概要・歴史

PSGのブランディング戦略の詳細に立ち入る前に、クラブの概要と歴史を簡単におさらいしておこう。

PSGの立ち位置

PSGはフランスのリーグ1(*1)に所属するクラブで、首都パリとその近郊の都市サン=ジェルマン=アン=レに拠点を置いている。本拠地はパリ郊外のスタジアム「パルク・デ・プランス」だ。他の欧州主要都市は複数クラブを擁することが多いのに対し、パリに拠点を置くクラブはPSGが唯一である(*2)

2022年現在、PSGはリーグ1の中でも有数の強豪クラブだ。2012-2013年度のシーズン以来、PSGはほぼ全ての年度でリーグ優勝を実現している。リーグ1には酒井宏樹選手や長友佑都選手ら日本人選手も複数所属したオリンピック・マルセイユ、南野拓実選手が今年から移籍したASモナコなども加盟しているが、PSGはそれらを凌ぐ好成績を収めている。

そんなPSGの名を世界に知らしめたのは、2010年代における相次ぐ有名選手の獲得だろう。2017年にキリアン・エンバペネイマールをそれぞれ2億ドルと2億6,000万ドルという高額の契約料で獲得し、さらに2021年にはリオネル・メッシを獲得。過去にはズラタン・イブラヒモビッチやデヴィッド・ベッカムも一時所属した。こうした有名選手の存在は、PSGの地位をフランスのみならず世界的な一流クラブへと向上させることに貢献した。


エンバペ、ネイマール、メッシ(Wikimedia Commons

(*1)「リーグ1」はフランスのトップリーグ。「リーグ・アン」とも表記される。プレミアリーグ(イングランド)、セリエA(イタリア)、ラ・リーガ(スペイン)、ブンデスリーガ(ドイツ)と合わせて欧州の五大プロサッカーリーグを構成している。
(*2)たとえばミラノにはACミランやインテル、ロンドンにはアーセナルやチェルシーなど、複数の世界的なクラブが拠点を置いている。

中堅クラブからカタールによる投資

しかしながら、PSGは2010年頃まで決して現在のような強豪クラブではなかった。成績はリーグ1でも中堅にとどまっており、資金難から経営不振に悩まされていた時期もある。

PSGが今日のような地位を確立する契機となったのは、2011年のカタール・スポーツ財団(QSI)による経営権取得だ。これによってPSGは、潤沢な資金を背景として選手獲得やブランディングへの投資が可能となり、直近十年で急速に業績を向上させたのだ。

業績内訳とその推移

PSGは2010年代の業績向上により、現在、その評価額は世界のサッカークラブのうちベスト10に入っている。2018-2019年度のPSGの収入総額は6億3,600万ユーロだった。この数字を上回っているのはFCバルセロナ、レアル・マドリード、マンチェスター・ユナイテッド、FCバイエルン・ミュンヘンの4クラブのみだ

PSGの収益の内訳としては、興行収入、放映権収入、商業収入が大半を占めている。

表1:PSGの年間売上の推移

年度

興行収入

放映権収入

商業収入

収入総額

2010-2011

24

45

26

95

2011-2012

34

47

139

220

2012-2013

53

91

255

398

2013-2014

63

83

327

474

2014-2015

77

106

294

477

2015-2016

92

123

305

520

2016-2017

90

122

276

487

2018-2019

106

128

308

541

2019-2020

115

157

366

637

Elberse and Vicente (2020)をもとに作成(単位は百万ユーロ)

興行収入

興行収入のカテゴリにはチケット売上を中心とする試合当日の収入が含まれる。これは2010-2011年度には2,400万ユーロだったが、2019-2020年度には1億1,500万ユーロへと5倍近くに増大している(表1)

その要因としては、クラブの成績向上にともなう来場者数の増加はもちろん、スタジアムへの投資による客席のリニューアルも大きい。

PSGが本拠地を置くパルク・デ・プランスは、欧州サッカー連盟が4年ごとに開催する大規模な選手権、ユーロ2016に向けて改修が行われた。その結果、収容人数が5万人近くへと増加するとともに、ディナーやカクテルを提供するVIP席やラウンジが増設されるなど、客席数と客単価の両面において施設の改良が行われた

とりわけ後者の施策は富裕層を中心に好評を博して、結果、同スタジアムにおけるプレミアムシーズンチケットの価格は10年間で6,000ユーロから1万1,000ユーロへと倍増した。


パルク・デ・プランス(Wikimedia Commons

放映権収入

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✍🏻 著者
パリ社会科学高等研究院博士課程
東京大学文学部卒業後、同大学院にて修士号(文学)取得。現在はパリ社会科学高等研究院の博士課程に在籍中。専門は政治文化史・社会政策思想史。著書に『欧米圏デジタル・ヒューマニティーズの基礎知識』(共編、2021年)、『歴史を射つ』(分担執筆、2015年)など。
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