英国の新首相リシ・スナクとは誰か?

公開日 2022年10月24日 22:45,

更新日 2022年10月25日 07:55,

有料記事 / 欧州

10月24日、英国の次期首相にリシ・スナク氏が就任することが決定した。スナク新首相は、1980年生まれの42歳。英国首相としてはデーヴィッド・キャメロン(就任当時43歳)やトニー・ブレア(同43歳)を凌ぐ若さでの就任となる。

スナク氏は7月のボリス・ジョンソン首相辞任の後、その後任をめぐる保守党党首選に立候補したものの、党員投票で前首相のリズ・トラス氏に敗れた。ところがトラス首相は就任直後から低支持率に悩まされた結果、10月20日に辞意を表明する。その後、前首相のボリス・ジョンソン氏は23日に党首選への出馬を断念。これにより、今回リシ・スナク氏が首相に就任することが確定した。

スナク氏は、ジョンソン政権下で2020年より財務大臣を務め、英国政界で頭角を現した。他方、スナク氏は今年の7月5日に財務大臣を辞任し、ジョンソン政権崩壊のきっかけを作った人物の一人でもある。スナク氏は辞任に際して、「翌週に予定された経済に関する共同演説を準備する中で、ジョンソン首相と私のアプローチは根本的に全く異なっていることが判明した」と発言。今後、英国の経済政策の方針が抜本的に変更される可能性を示唆した。

リシ・スナク政権の誕生により、英国政治と国際情勢はどのような影響を被るのだろうか。そして、そもそも彼は一体どのような人物なのだろうか。

リシ・スナクの前半生

リシ・スナクは1980年5月12日、イングランド南部の英仏海峡に面した港町サウサンプトンで生まれた。父親のヤシュヴィル・スナクはNHSの総合医(*1)、母ウーシャは薬剤師だった。

スナクの家系は、旧英国領にルーツを持っている。両親はいずれもインドのパンジャーブに実家を持つヒンドゥー教徒で、出身は東アフリカだ。母方の家族は1960年代に英国に移住して薬局を開業。後に伴侶となるヤシュヴィルと出会ったのもNHSにおいてだ。そうした両親のもと、リシ・スナクは3人兄弟の長男として生まれた。

スナクは名門パブリックスクールであるウィンチェスター・コレッジを卒業後、オクスフォード大学に入学、リンカーン・コレッジで哲学・政治・経済学(PPE)を専攻する。

(*1)NHSは英国の公的医療保険。医療費は無料であり、患者はまず総合医(GP)の診断を受けてから症状に応じて専門医を紹介されるというシステム。

米国留学と投資家としてのキャリア

学業を終えたスナクは、金融業界に進路を定めた。オクスフォード在学中から投資サークルの部長として活動するなど、早くから金融に興味を示しており、卒業後にはGoldman Sachs社でアナリストとしてキャリアを開始した(*2)

同社への在籍中、スナクはフルブライト奨学生に選抜され、スタンフォード大学のMBA課程に留学する。

帰国後、スナクはヘッジファンドであるThe Children's Investment Fundに参加、ジュニア・パートナーとして業務に携わった。金融危機に際して同ファンドが分裂すると、スナクはTheleme Partnersの立ち上げに加わる。ファンド経営者として、シリコンバレーからインドのベンガルールまで、多国籍にわたる企業に対して幅広く投資を行った。さらにその経験を生かし、英国の小規模なスタートアップの成長を支援した

(*2)名門校卒業後、金融業界を経て政治の世界で成功するという経歴は、フランスのエマニュエル・マクロン大統領と共通している。

結婚とビジネスの成長

スナクはスタンフォード留学中、のちに妻となるアクシャタ・ムルティと出会っている。アクシャタは、世界有数のIT企業であるInfosys社の共同設立者ナラヤナ・ムルティの娘だ。スナクが留学を終えた後、2人は2009年にインドのベンガルールで結婚し、アヌシュカとクリシュナという2人の娘を授かった。

この結婚は、スナクの金融業界におけるキャリアにとってもポジティブに作用した。というのも、義父のナラヤナ・ムルティもスナクの能力を高く評価したからだ。彼はスナクを自身の経営する投資ファンド、Catamaran Venturesの役員に任命する。

こうした投資家としてのキャリアを通じて、スナクは妻と合わせて7億3,000万ポンド(現在の為替レートで約1,200億円)という巨額の財産を築き、2022年には英国の長者番付の222位にランクインしている。

政界進出

2015年、スナクは35歳で保守党から下院議員に立候補し、当選を果たす。2019年には財務省における大臣に次ぐ要職である主席政務官に任命された。

2020年、サジド・ジャヴィド財務大臣が辞任すると、スナクはその後任に抜擢。彼が英国民の間で広く認知されるようになったのも、この時だ。スナクは財務大臣の任期中、Brexitやパンデミック対応などの政策で存在感を示した。

リシ・スナクの政策方針

スナクは議員在職中、どのような政策方針を掲げてきたのだろうか。ここでは特に注目度の高いものとして、Brexit、対中関係、パンデミック対応、ウクライナ危機、インフレ・不況対策のテーマを見ていこう。

Brexitへの姿勢

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✍🏻 著者
パリ社会科学高等研究院博士課程
東京大学文学部卒業後、同大学院にて修士号(文学)取得。現在はパリ社会科学高等研究院の博士課程に在籍中。専門は政治文化史・社会政策思想史。著書に『欧米圏デジタル・ヒューマニティーズの基礎知識』(共編、2021年)、『歴史を射つ』(分担執筆、2015年)など。
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