ベルリン国際映画祭、演技賞の性別区分を廃止。なぜ懸念も?

社会問題・人権・環境

公開日 2020/08/26 08:36,

更新日 2020/08/26 10:17

有料記事

2021年2月に開催予定のベルリン国際映画祭(通称ベルリナーレ)が、コンペティション部門で授与する賞を再編成すると発表した。演技賞では、性別による分類を取りやめ、これまでの最優秀男優賞、最優秀女優賞の代わりに、「最優秀演技賞」と「最優秀助演賞」が性別に関係なく授与されるという。

女性やマイノリティに対する格差是正の施策としてポジティブに見えるアクションだが、一方でこのような変更は、女性の権利保護の観点から懸念を示されることもある。

その懸念とは何だろうか?また、ベルリン国際映画祭は、どのようにそれを乗り越えているのだろうか?

主要な国際映画祭において初

ベルリン国際映画祭が発表した声明によると、2021年の映画祭から(最優秀賞である)銀熊賞はジェンダーニュートラルとなり、主演男優賞と主演女優賞の代わりに、最優秀主演賞と最優秀助演賞が性別に関係なく授与されるようになる。

映画祭ディレクターのマリエッテ・リッセンベークとカルロ・シャトリアンは、「演技分野の賞を性別で分けないことは、映画業界がよりジェンダーに敏感になるためのシグナルになると信じている」とコメントしている

銀熊賞の一部門である男優賞・女優賞は、監督賞と並んで1956年に導入された歴史ある賞である。日本人では山田洋次監督の『小さいおうち』に出演した黒木華、2010年に若松孝二監督の『キャタピラー』に主演した寺島しのぶらが受賞している。

アカデミー賞をはじめ、映画の演技賞の多くは「主演男優賞」「主演女優賞」「助演男優賞」「助演女優賞」などにカテゴリーが分けられている。ベルリンと並んで、世界三大映画祭として知られるカンヌやヴェネツィアを含む多くの国際映画祭では、男女別の演技賞の枠組みが維持されている。主要な国際映画祭においては今回初めて、性別に基づいて演技賞を授与する方法が変更された。

なお、主要国際映画祭では初めて採用されることとなったジェンダーニュートラルな演技賞だが、米国のMTVムービー&TVアワードにおいては2017年から性別での部門分けが廃止され、「主演男優賞」と「主演女優賞」が「最優秀俳優賞」に統合されている。

しかし当時、一見ポジティブに思えるこの決定は賛否を巻き起こした。それは一体なぜだろうか。その決定に対する、賛否の両側面を概観していこう。

演技とジェンダーカテゴリーは無関係

MTVアワード2017において、最優秀俳優賞を受賞したエマ・ワトソンは受賞スピーチで「ジェンダーニュートラルアワードは、演技とは自分を他人の立場に置く能力に関するものであり、男女という2つの異なるカテゴリーに分ける必要がないことを示している」と称賛した

彼女が述べるとおり、演技が創造性を問うものである以上、演技のスキルセットは性別によって異なるものではない。その意味で、役者としてのスキルが共通のものさしで測られるようになったということを指して、男女の平等化が進んだと判断することは必ずしも間違っていないだろう。

また、特に近年「女性が男性の役を演じたら(またはその逆は)どうなるのか?」「トランスジェンダーやXジェンダーの俳優はどちらの賞の対象になるのか?」という議論が聞かれるようになっている。

このトピックは、今年の6月にエイジア・ケイト・ディロンというノンバイナリーの俳優が、SAG(全米俳優組合)アワードへ演技賞での男女による二分法廃止の提案をしたことでも話題になった。

性別が二分法で分けられるものではないにもかかわらず、演技のカテゴリーを男女で分けることは性的少数者にとって排他的で差別的であるという声が上がる中、そのような配慮も含めて妥当な対応と見ることもできる。

女性が不利になるおそれも

一方で、男性が大きな権力を持つ傾向にある映画業界において、ショーレースがジェンダーニュートラルとなることの危険性を指摘する声もある。

続きを読む

この続き: 1,443文字 / 画像0枚

この記事の全文を読むためには、メンバーシップ(月額980円または3200円の定期購読)に参加していただくか、単品購入する必要があります。持続可能で良質なメディアをつくるため、下記のリンクよりメンバーシップについてご確認ください。

メンバーシップについて知る

または、記事を単体購入する

著者
早稲田大学政治経済学部卒業後、株式会社マイナースタジオの立ち上げに参画。関心領域は、政治思想や東南アジアの政治経済など。Twitter : @akabaneshuta
おすすめの記事

政治・国際関係

ブレグジット後の移民政策、「現代奴隷」を増加させる脅威に?

有料記事

昨年10月、EU(欧州連合)からの離脱協定に合意したイギリスが、今年1月31日正式に離脱した。ただ年内は11ヵ月の移行期間中であるため大きな変化は生じていない。現在イギリス政府は、FTA(自由貿易協定···

議論 / 編集長より

なぜ「ホームレスを異文化扱いしてはだめなのか」?

無料記事

今月11日、「ホームレスを3年間取材し続けたら、意外な一面にびっくりした」という記事が大きな話題を集めた。記事そのものの問題点に加え、同記事が掲載されたプラットフォームであるcakesから「cakes···

社会問題・人権・環境

ポーランド、人工中絶への違憲判決をめぐり大規模デモ。一体なぜ?

有料記事

2020年10月22日、ポーランドの憲法裁判所は、胎児が重度の障がいを持っていることを理由にした人工妊娠中絶が違憲であるとの判決を下した。国内で毎年約1000件おこなわれる人工妊娠中絶の98%は、胎児···

社会問題・人権・環境

K-POPの光と闇。世界的な成功の裏に、活動休止や極端な選択が相次ぐ理由

有料記事

韓国の大手芸能事務所JYPエンターテインメントの女性グループNiziU(ニジュー)のミイヒが、体調不良のため休養することが発表された。同事務所のグループTWICEの日本人メンバーであるミナも、2019···

社会

韓国、衝撃の「n番部屋」事件とは

無料記事

今月17日、韓国で衝撃を呼んでいる「n番の部屋」事件の首謀者として1人の男性が逮捕された。すでに筆者は、本事件について下記YouTube動画を公開しているが、動画では扱えなかった事件の全貌について、現···

政治・国際関係

日本学術会議の任命拒否問題とは何であり、何が問題なのか?

無料記事

今月1日、日本学術会議(学術会議)の新会員について、同会議が推薦した会員候補のうち6名を菅義偉首相が任命しなかったことが、しんぶん赤旗によって報じられた。これに対して、野党から批判が集まった他、Twi···

社会問題・人権・環境

フェミニズムとは何か?:なぜ女性の権利ばかりが主張されるのか

無料記事

わたしたちは、フェミニズムの時代に生きている。フェミニズムを時代性やブームのように捉えることに異論はあるかもしれないが、#MeTooムーブメントや韓国の書籍『82年生まれ、キム・ジヨン』のベストセラー···

政治・国際関係

なぜ日本は核兵器禁止条約に参加しないのか?

有料記事

8月9日は、6日の広島市につづく長崎市への原爆投下の日である。毎年この時期になると話題になるのが、日本の核兵器に関する立場だ。6日に広島市で開かれた平和記念式典であいさつした安部首相は、「唯一の戦争被···

政治・国際関係

なぜ米国や日本は、TikTokを禁止しようとしているのか

有料記事

米国で、TikTokなど中国製アプリの締め出しに関する議論が盛り上がる中、日本でも一部自民党議員から同様の声が上がり始めた。28日、自民党の「ルール形成戦略議員連盟」の会合において甘利明会長は「水面下···