なぜ経口中絶薬の承認申請が注目を集め、批判を浴びているのか?

公開日 2021年12月24日 19:05,

更新日 2021年12月30日 12:33,

有料記事 / 社会問題・人権・環境

英国の製薬会社ラインファーマは今月22日、厚生労働省に2種類の経口中絶薬について承認を申請した。承認されれば国内初の経口中絶薬となり、手術を伴わない人工妊娠中絶が可能となる。

現在日本では薬剤による中絶は認められておらず、子宮内の内容物を掻き出す「掻爬(そうは)法(頸管拡張及び子宮内膜掻爬術、D&C)」が8割を占めている。しかし、この掻爬法は高額かつ母体にリスクを伴う手術であることから、国内外から問題視されている。今回、経口中絶薬が承認されることで、中絶方法の選択肢が広がることとなる。

しかし同薬をめぐっては、高額な処方費用を望む声などもあり課題も残されている。

今回承認申請が出された経口中絶薬とは、どのようなものなのだろうか?また経口中絶薬をめぐり、どのような議論があるのだろうか?

経口中絶薬とは?

経口中絶薬は、人工妊娠中絶を手術なしでおこなうための薬だ。

今回、日本で承認申請されたミフェプリストンは 80ヶ国以上で使用されており、妥当な価格で広く使用されるべき薬であるWHOの「必須医薬品リスト」にも含まれている。1988年に世界で初めて承認した中国やフランス、中絶が政治問題化されている米国、最近では2015年にカナダでも承認された。

妊娠の継続に必要な女性ホルモンの分泌を抑える作用をもつミフェプリストンと、子宮を収縮させる作用をもつミソプロストールの2種類を組み合わせて服用することによって、人工的に流産を起こさせる仕組みとなっている。

利点は?

経口中絶薬の利点は、安全で効果的なことだ。妊娠9週以内に錠剤を投与した場合、99.6%の確率で妊娠は防がれ、重大な合併症のリスクは0.4%であり、関連する死亡率は0.001%未満(0.00064%)となっている。

前述した掻爬(そうは)法は、出血や感染症、子宮穿孔(器具の先端が子宮の壁を貫通すること)などのリスクが指摘されている。そのためWHOは、妊娠第一期(妊娠初期の12-14 週間)の掻爬法について「時代遅れの外科的中絶方法」として、同じく外科的中絶方法である「真空吸引法」を用いるか「薬剤による中絶方法に切り替えるべき」だと明言している。

また経口中絶薬は、医療へのアクセス拡大にも繋がる。

経口中絶薬による中絶は、農村部に住む人々や医療施設への移動が困難な人々などにとってアクセスを向上させる利点があり、外科的中絶方法に熟練していない医療従事者であっても、医療サービスを提供できる。加えて、日本では中絶手術が自由診療であり、その費用は10-20万円程度と高額になっている。特に若い女性にとって大きな負担であり、問題視されている。

地理的な障壁、限られた医師による手術というリソースの障壁、そして高額な費用という障壁が取り払われることで、医療へのアクセスが広がるということだ。つまり掻爬法が主流となっている状態から経口中絶薬という選択肢が増えることは、女性の身体や健康、権利にとって望ましい状態だと言える。

安全性とリスクは?

では経口中絶薬にはリスクがなく、その安全性は確実なのだろうか?

まず厚生労働省は、今回承認申請されたミフェプリストンについて安全性を疑問視するかのような注意喚起を掲載している。そこでは

ときに手術が必要となる出血等の危険性があるため、米国食品医薬品局(FDA)では、インターネットや個人輸入により入手することのないよう、注意喚起を行っています

と指摘される。しかしFDAが述べているのは、あくまでインターネットを介した購入への注意喚起であり、ミフェプリストンの安全性そのものを疑問視する内容ではない。実際、厚労省のサイトでも出血については「腹痛と膣からの出血は、薬剤による中絶において予想される症状です。通常、これらの症状は薬剤の効果があることを示します」とも記述されている。

また、前述したように掻爬法であっても大量出血のリスクは存在するため、経口中絶薬のみに伴うリスクではない。

とはいえ、経口中絶薬にもリスクは存在する。米食品医薬品局(FDA)は、経口中絶薬の副作用について出血や下腹部痛以外に、吐き気・脱力感・発熱・悪寒・嘔吐・頭痛・下痢などを挙げており、また敗血症など重篤な有害事象も挙げている。この重篤な有害事象については、2000年9月に米国で同薬が承認されてから2021年6月30日までの約21年間で、26人の女性が死亡していると報告されている。(ただし死亡率は医療サービスや公衆衛生などの状況によって異なるため、米国の状況がそのまま当てはまるわけではない)また、経口中絶薬のみで中絶が完了しない場合もあり、100% の万能性を意味しているわけではない。

しかし重要なことは、こうしたリスクも踏まえた上でWHOをはじめとする多くの専門機関や専門家が、妊娠第一期における薬剤による中絶方法を推奨しており、掻爬法のリスクの高さを懸念しているということだ。(*1)

(*1)医療サービスにおいてゼロリスクは存在しない。たとえば新型コロナウイルスのワクチンについても、リスクと便益を計った上で接種が推奨されている。

リプロダクティブ・ヘルス・ライツ

以上を踏まえて、経口中絶薬という選択肢が生まれることはリプロダクティブ・ヘルス・ライツの観点から望ましいと言える。

リプロダクティブ・ヘルス・ライツ(*2)とは、「すべての夫婦・個人が、子供の数・間隔・タイミングを自由に責任を持って決定し、そのための情報と手段を持つこと、また高い水準の性やリプロダクティブ・ヘルツ(生殖に関する健康)を実現するための権利」だ。

女性が、自らの意思に基づいて妊娠あるいは避妊・中絶をすること、またそこに安全で、科学的に効果のある手段が提供されることは、基本的な権利だ。

リスクある掻爬法が主流となっていることは、こうした女性の権利が侵害されている状態であり、そこに新たな選択肢が増え、安全で効果的な医療へのアクセスが広がることは、その権利が守られている状態なのだ。

(*2)セクシュアル・アンド・リプロダクティブ・ヘルス・ライツ(Sexual and Reproductive Health Rights)とも呼ばれる。

認可の経緯は?

しかし経口中絶薬について、日本産婦人科医会などは慎重な姿勢を取り続けてきた

世界の動向

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著者
編集長
1989年東京都生まれ。2015年、起業した会社を東証一部上場企業に売却後、2020年に本誌立ち上げ。早稲田大学政治学研究科 修士課程修了(政治学)。Abema TV『ABEMAヒルズ』、日テレ系『スッキリ』、現代ビジネス、TBS系『サンデー・ジャポン』などでもニュース解説をおこなう。関心領域は、メディアや政治思想、近代東アジア、テクノロジー時代の倫理と政治など。
リサーチャー
The HEADLINEリサーチャー。立教大学文学部文学科文芸思想専修所属。関心領域は文学、西洋哲学、人権・LGBTQ問題など。
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