東京五輪に出場する「難民選手団」とは何か?

公開日 2021年06月10日 18:19,

更新日 2021年06月10日 18:36,

有料記事 / 社会問題・人権・環境

パンデミック下の開催に対して懸念の声も強い東京五輪・パラリンピックだが、今月8日に国際オリンピック委員会(IOC)は、「難民選手団」の出場を発表した。12の競技に29人のアスリートが出場することが決まっており、初めて結成された前回の2016年リオデジャネイロ五輪からは約3倍の出場者となった。

「難民選手団」とは何であり、どのような意義があるのだろうか?

難民選手団とは

難民選手団とは、シリアや南スーダン、コンゴなど紛争地域を逃れるなどして難民となった人々から構成された選手団だ。2016年のリオデジャネイロ五輪で初めて結成され、「世界中の難民にとって希望の象徴となり、難民の危機について世界中が関心を持つ」ために誕生した。

トレーニングや生活を支援するため、IOCによって200万ドルの基金が設立され、リオ五輪では43人の候補者から10人の選手が選ばれた。「ぼったくり男爵」の異名を持つIOCのトーマス・バッハ会長は、難民選手団について「世界の全ての難民に、希望のメッセージを送りたい」と語っていた。

今回の東京五輪でも、2019年6月20日の「世界難民の日」に出場選手候補となる56人が発表され、五輪の1年延期を経て、出場選手29名が決定したという経緯だ。同選手団は、開会式では五輪旗を掲げながら、古代オリンピック発祥の地であるギリシャに続いて、2番目で行進する予定となっている。

東京五輪には3倍

前述したように、今回の東京五輪には29人のアスリートが出場することが決定しており、全出場者は以下の通りだ。

選手名 出身国 ホストする国 競技
アラー・マソ シリア ドイツ 水泳
ユスラ・マルディニ シリア ドイツ 水泳
ドリアン・ケレテラ コンゴ ポルトガル 陸上
ローズ・ロコニエン 南スーダン ケニア 陸上
ジェームス・チェンジェック 南スーダン ケニア 陸上
アンジェリーナ・ロハリス 南スーダン ケニア 陸上
パウロ・ロコロ 南スーダン ケニア 陸上
ジャマール・アブデルマジ・イーサ・モハメド スーダン イスラエル 陸上
タクロウィニ・メラケ・ガブリエソス エリトリア イスラエル 陸上
アラム・マフムド シリア オランダ バドミントン
ウェッサム・サラマナ シリア ドイツ ボクシング
エルドリック・セラ・ロドリゲス ベネズエラ トリニダード・トバゴ ボクシング
サイード・ファズルーラ イラン ドイツ カヌー
マソマ・アリ・ザダ アフガニスタン フランス 自転車
アフマド・ワイス シリア スイス 自転車
サンダ・アルダス シリア オランダ 柔道
アフマド・アリカジ シリア ドイツ 柔道
ムナ・ダフク シリア オランダ 柔道
ジャバド・マフジョーブ イラン カナダ 柔道
ポポル・ミセンガ コンゴ民主共和国 ブラジル 柔道
ニガラ・シャヘン アフガニスタン ロシア 柔道
ワエル・シュエブ シリア ドイツ 空手
ハムーン・デラフシポア イラン カナダ 空手
ルナ・ソロモン エリトリア スイス 射撃
ディナ・プルーンス イラン オランダ テコンドー
キミア・アリザデ イラン ドイツ テコンドー
アブドラ・セディク アフガニスタン ベルギー テコンドー
ファガト・チャチェット2世 カメルーン 英国 ウエイトリフティング
アケル・アル・オバイディ イラン オーストリア レスリング

 

最多出身国はシリア、2度目の出場選手も

出身国の内訳としては、シリアが9人で最多となっており、5人のイランが続く。他に南スーダンが4人、アフガニスタンが3人、エリトリアが2人、イラク・カメルーン・ベネズエラ・スーダン・コンゴ民主共和国・コンゴ共和国からそれぞれ1人ずつが選出された。

アスリートたちは各国で難民認定を受けているが、彼らをホストする国としてはドイツやオランダ、スイスなどの欧州各国が多く、カナダやケニアなども含まれる。

またアスリートの中には、リオ五輪につづいて2度目の出場を果たしている選手もいる。水泳のユスラ・マルディニ選手、柔道選手のポポル・ミセンガ選手、陸上のアンジェリーナ・ロハリス選手などだ。

なぜ難民選手団に?

アスリートたちは、どのように難民選手団となったのだろうか。よく知られているのは、ユスラ・マルディニ選手の物語だ。


ユスラ・マルディニ選手(Wikipedia

マルディニ選手は、1998年3月5日にシリアのダマスカスで生まれた23歳だ。

シリアでは、2011年の「アラブの春」より死者40万人・難民600万人という甚大な被害を生み出した内戦が続いている。「今世紀最悪の人道危機」と呼ばれるが、5月末にはアサド大統領が圧倒的な得票率によって再選するなど、状況の打開は見えていない。

戦禍を逃れるためにマルディニ選手は2015年、姉とともにシリア脱出を決断した。2人はレバノンからトルコに向かい、密輸業者に費用を払ってギリシャ行きの密航ボートを手配した。ところが、20人が乗ったボートは、エーゲ海上でエンジンが停止してしまった。水没を阻止しようと、難民たちは荷物を次々と海へと捨てたが、事態は悪化する一方で、最後の手段としてマルディニ選手と姉ら3人が、海中に飛び込んだ。

続きを読む

この続き: 1,439文字 / 画像0枚

この記事を読むためには、月額980円のメンバーシップに参加するか単体購入が必要です。10日間の無料トライアルで、いますぐ読むことができます。

いますぐ無料トライアル

メンバーシップに関するご質問、決済や支払い方法などについては、「よくある質問」をご覧ください。

著者
編集長
1989年東京都生まれ。2015年、起業した会社を東証一部上場企業に売却後、2020年に本誌立ち上げ。早稲田大学政治学研究科 修士課程修了(政治学)。Abema TV『ABEMAヒルズ』、日テレ系『スッキリ』、現代ビジネス、TBS系『サンデー・ジャポン』などでもニュース解説をおこなう。関心領域は、メディアや政治思想、近代東アジア、テクノロジー時代の倫理と政治など。
最新情報を受け取る

ニュースレターやTwitterをチェックして、最新の記事やニュースを受け取ってください。

おすすめの記事